職種を超えて、チーム医療の原点を築いたクリニカルパス
福井県済生会病院では、さまざまな職種がそれぞれの専門領域で力を発揮し、“チーム”となって医療活動を行っています。
当院で本格的なチーム医療が稼働するきっかけとなったのが、クリニカルパスです。クリニカルパスとは入院患者さんの治療計画表のこと。当院では平成5年からクリニカルパスを導入し、入院中にいつ・どのような治療・検査が行われ、食事やリハビリの内容がどのようになるのかを一覧で表示し、患者さんにお渡ししています。
クリニカルパスを導入した目的の一つが、医療の均一化です。
クリニカルパス導入以前は、治療計画は医師が単独で決定していました。そのため医師によって治療計画に差異があり、それに伴う看護、投薬、リハビリなどのケアにもバラつきがありました。
「これを統一し、一定の基準に基づいて治療をするためのガイドラインとして、クリニカルパスを作成したのです」と話すのはクリニカルパス委員長を務める笠原善郎医師。導入の初期段階からクリニカルパスに関わってきました。
「医療界全体の風潮として、医師が頂点に立ってすべてを決定するという構図が以前はありました。クリニカルパスを作成するにあたり、当院ではまずそのような職種間の壁を取り払い、各専門職がそれぞれの立場で意見を出し合うことから始めました。よりよい治療をするために、患者さんに必要なケアを提供するために、どういう方法がベストなのかを携わるスタッフで話し合うことによって他職種との連携が強まり、チームとしての結束も強まるようになっていったのです」。
クリニカルパスには手術や検査以外にも点滴や食事、リハビリ、入浴に関することなど、さまざまな情報を記載しています。これらの内容は看護師や薬剤師、栄養士、理学療法士など各分野のスペシャリストたちが長年の経験や専門的根拠に基づいて定めたもの。各職種の視点を取り入れることで、医療の均一化のみならず、質の向上にもつなげています。
クリニカルパスの内容を決定するまでには各職種が集まって何度も検討会を重ねています。運用中のクリニカルパスも定期的に見直しをし、現場にベストマッチしたものとなるよう精査しています。
クリニカルパス導入のもう一つの目的が、患者さんへの情報伝達です。
「患者さんは入院中、どのように過ごすのか不安を抱えていらっしゃいます。そんな不安を少しでも和らげられるよう治療計画を一覧で示したクリニカルパスをお渡しし、安心につなげています」と話すのは、幅口由江メディカルコーディネーター。
クリニカルパスは医療者向けと患者さん向けの2種類が作成されます。メディカルコーディネーターは患者さん向けのクリニカルパス作成を担当。日頃から患者さんと医師の橋渡し役となるメディカルコーディネーターは、患者さんにより近い立場からクリニカルパスを構成。「患者さんに理解していただけるよう、専門的な医療用語をなるべく使わず、わかりやすい表現を心掛けています」。
入院する患者さんは緊張や不安などで医療者からの説明を十分に理解できないこともあります。説明とともに治療計画を一覧にしたクリニカルパスをお渡しすることで、検査や手術に対する不安の軽減につながります。また、患者さんだけでなくご家族にも確認していただく資料としての役割も果たしています。
クリニカルパスは入院前に説明用としてお渡しし、入院中はベッドサイドに掲示。検査の時間などその日のスケジュールがわかるので患者さんが行動予定を立てやすくなるなどのメリットもあります。
クリニカルパスは症例ごとに定められ、当院では現在、約130種類のパスを運用しています。
たとえば乳がんの場合、手術は医師、看護ケアは看護師、抗がん剤は薬剤師、入院中の食事に関しては栄養士、術後のリハビリは理学療法士など、各職種が治療に参画。これまでの事例や最新の臨床データに基づいて作成されたクリニカルパスに基づき、チーム医療を実践しています。
多くのスタッフが関わって作成されるクリニカルパス。その一枚一枚に込められた思いは、チーム医療の潤滑油として重要な役割を果たしています。
受診について